お侍様 小劇場 extra めりーくりすますだにゃあvv

    “聖夜一景” 〜寵猫抄より
 


冬というと夜の訪のいがとにかく早くて…という印象があるが、
実を言うと冬至以降は、
日の入りの時刻がどんどん遅くなり、夕刻が長くなる。
ここからは日の出がどんどん遅くなるからで、
立春あたりのピークを目がけ、
ただでさえ寒さも厳しくなるというに、
いつまでも陽が昇らないものだから、
尚のこと、布団から出るのが億劫になったご記憶は、
どなたにもお有りだろう。

そんな真冬へと向かうのの、今はまだ入り口辺り。
ほんの数日前にその“冬至”を見送ったばかりで、
とはいえ、6時を回ればさすがに、
窓の外はすっかりと暗くなっての、庭の木々の輪郭も夜陰に沈み切る。
リビングのBGMとなっているテレビからは、
ニュースのシメか、若しくは天気予報の枕というやつか、
函館では高さ20mのツリーに5万個の電飾が灯って綺麗です、
何の何の、お台場はレインボウブリッジの傍には、
コンピュータ制御で色々な画像が浮かぶ最先端のツリーが見事ですよと、
各地の名物ツリーが中継でリレーされており。

 “それってネオンサインとどう違うんだろ?”

ツリーのイルミネーションからは もはや別物になってないかい?と、
その内心で小首を傾げつつ、
使い慣れたる角盆へ、茶器とそれから湯気の立つグラスとを並べ、
ひょいと掲げてキッチンからのお廊下を小走りに運べば、

 “わ……vv”

そこには何ともやさしい構図が出来上がっており。
あああ、両手が塞がっているのが恨めしいと、
ポケット在中の携帯電話に手が届かぬ身を、
ちょみっと嘆いてしまったり。

 『にゃあ・みゃvv』

幼い家人がいるせいもあっての、少し早めの夕食終えて。
お腹いっぱい、御馳走さました〜♪っとのご機嫌さん。
小さなお手々で口許やら頬やら、
ゴシゴシこしこし、お手入れに余念のない仔猫様を抱っこして、
後片付け担当の七郎次の邪魔にならぬよう、
先んじてそちらへ撤退していた勘兵衛だったのだが。
テーブルセットを少しほどズラして据えた、冬の主役、
フローリングへじかにおいても底冷えしませんマットの上へ、
お花を逆さに伏せたよにふんわりした布団が四方へと広がる、
お久し振りに引っ張り出されてた炬燵の一角。
もはやすっかりと馴染んだ様子で、
座椅子を使い、腰を下ろしていた勘兵衛のお膝には、
小さな坊やがコロンとその身を丸めており。

 「……。」

ふわふかな金の綿毛が乗っかった、小さな肩も可憐に愛らしい、
ちょみりと幼い和子をお膝へ見下ろし、
大ぶりで持ち重りのしそうな頼もしい手で、
愛しい愛しいという呪文を静かにかけるかのよに、
坊やのお背(せな)を撫でる様子は正に、慈愛に満ちた一幅の絵。

 “…なんか、
  イエス様に見えるかもなんて言ったら罰が当たるかなぁ?”

これ以上はなかろう和物調度の、炬燵に入ってる姿だのにね。
それにそれに、随分と雄々しい肩や上背をなさっておいでの壮年殿。
くせの伸びた鋼色の蓬髪を、肩の向こうへまで豊かにすべらかし。
顎へとたくわえた髭もしっくりと馴染む、
彫の深い面差しをややうつむけて。
深みのある表情たたえて、伏し目がちになった目許といい、
穏やかに和んだ口許の、それは落ち着いて優しいことといい。
さながら、いつまでも見ていたい構図として、
完成度の高いまま、
すぐのそこへと“どんっ”と降臨したもうたものだから。
これをこのまま永久保存出来ないなんてと、
それを惜しんでの歯咬み、
くうぅ〜っと噛みしめつつ立ち尽くしておれば、

 「? 如何した?」

そのようなところに立ちん坊なぞして。
足元から冷やすぞと、お顔を上げてのこちらに気づかれてしまわれては。
もはや傍観者でいる訳にもいかなくて。
たずさえてきたのは茶器とそれから、
勘兵衛の晩酌、お湯で割った焼酎と。
歩みを運んだ炬燵、御主のすぐお隣の縁へと、
膝を折りつつ腰を降ろした七郎次。

 「よう寝ておりますね。」

せめてもの言い訳、
だから邪魔しないかと思っての音なしでいたのですよと、
含みを持たせる言いようをすれば、

 「昼間のうち、随分とはしゃいでおったからの。」

誤魔化したことにまでは、気づかなんだ御主だったか。
仔猫さんのあどけない寝顔を再び見下ろし、
すっかりと正体なくした坊やの蕩けそうな寝顔を、
そりゃあ愛おしげに眺めやるのへ、

 「ツリーに引き続いて、すぐさま出しましたものね。」

それへは七郎次としても、苦笑に口許がほころぶばかり。
それまでの例年、さして使わなんだ代物だったので、
うっかりすっかり忘れ切っていたのだけれど。
暖冬として終わりかけてた昨年の冬の悪あがき、
いきなり帳尻合わせの寒波が来たものだから、
そうそうこれがあったと思い出しての、随分と遅くに出したもの。
仔猫の久蔵には初めて見るものだったらしく、
何だこれ?というお顔になっていたのも束の間のこと。
勘兵衛がひょいと抱えて、
丁度今のようにお膝に乗っけるように座り込めば。
掛け布越しのじんわりとした暖かさには逆らえずの、
あっと言う間にトリコとなってしまい。
そのまま冬場の定位置にしてしまった久蔵だったりし。
片付ける折なぞ、そりゃあしんみりと落ち込んで見せ、
置いてあった跡地を小さなお手々で撫で撫でとこすって。
名残り惜しいですという心情、
それ以上はないほど端的且つ切なげに示して見せた坊やでもあり。

 “あれには参りました、いやホント。”

それを覚えていたこともあっての、今年はとっとと出した置きごたつ。
勿論のこと、久蔵もまた、しっかと覚えていたようで。
それまでは連日、ツリーのキラキラを飽かず眺めていたものが、
今日はまるきり関心無くし。
その代わりのよに、炬燵にばかりご執心。
布団の裳裾、なだらかな斜面を、
久し振りだねと呼びかけるよに、ぽふぽふと撫でてみたり。
立っちしての両手を天板へ突っ張って、
そやってお手々を押しつけると、あのね?
天辺からも じわんって あたかいのが来るのよと。
ふくふくした頬をゆるめ、
潤ませた目許たわめて“はううぅ…vv”と、
そりゃあ嬉しそうに微笑って見せたり。
こんな小さい子供でも、冬と言えば…と、
たった一シーズンであっさりと馴染んでしまったほどのもの。
だって言うのに、自分たちと来たらば、

 “よくもまあ、ずっとずっと思い出せずにいたことで。”

畳のお部屋だってあるのにね。
そこへと使うようにと、
冬場のあれこれ、ファンヒータやダウンのコート、
倉庫から出すおりに、これもと気づきそうな物だのに。
昨年の、それも随分と春も間近になるまで、
炬燵があったねぇというの、ちいとも思い出せずに居たなんてね。

  だって例年ならば

今頃はどこぞかの宿へと向けて、早い目の出立を終えてる頃合いで。
ずっと、独身の男二人という感覚でいたせいだろか、
住処は単なる現住所か、あるいは勘兵衛の執筆の場に過ぎず、
そのまま“家庭”でもあるという感覚は薄く。
勘兵衛の執筆依頼が一つ上がれば、
骨休めを兼ね、何処ぞかへ遠出するのが常だったので。

 “そうですよね。今年も結構出掛けはしましたが。”

花見や避暑を名目にした小旅行、秋には高原のあの別邸へも出掛けたし。
それでも…そういや。
今年はこの屋敷にいて過ごした時間がずんと長い。
勘兵衛の仕事が多岐に渡って来て、
講演だの販促イベントだのへの招聘が多く、
むやみに足場を動かせなかったというのもあったが。
それを除けても、この家にいる時間の何とも長かったことよ。
外へと出掛けるのが億劫になったんじゃなく、
このおチビさんと、このリビングやお庭にて、
共に過ごすことこそが、生活の主軸となっていたから。

 「………っ。//////////」

足を突っ込んだ炬燵の、じんわりした温(ぬく)とさも愛しいけれど。
うっかりとしていて、中でとんと足が当たったお膝の主が、
くすんと小さく微笑ってくれる、
文字通りの“距離感”が、心あたためてくれて嬉しくて。

 「そうそう、小早川さんから電話がかかってきておりました。」
 「おお、そうだったな。」

年の瀬と年越しを過ごす、勘兵衛の知己が営む温泉地の宿。
このノリのまま、今年はここで迎えてもよかったのだが、
そんな心情をどうやって嗅ぎ付けたやら、
それとも、例年ならもっと早くに連絡くれる勘兵衛が、
ここまで押し詰まっても うんともすんとも言うて来ぬので、
今年はあちらさんからしびれを切らしたか。

  お土産さえ見繕えば、出掛ける支度はすぐにも整いますよ?
  さようか、ならば明日にも連絡を入れておこう。

久蔵が大人しくしていてくれればいいのですが。
そういや、土産物屋の犬に懐かれたそうだの。
よく覚えておいでですね、と、話題は尽きず。
くうすう眠る仔猫さん坊やの肩には、
マフラーにもなる、背中に張りつく型の小さなボレロ。
次は壮年殿のカーディガンだろか、ずんと大物を編む七郎次の、
絹糸のよな金絲の房をうなじに束ねる髪ゴムの飾りとして光るは、
ツリーのオーナメントにも負けぬ綺羅らかさを放つ
クリスタルのビーズが二連。
向こうを向かねば愛でられぬそれなのを、
それでいいのだと満足してござる贈り主は、

 『…何としても今宵中に間に合わせますから。』

初心者がここまで編めるよになったニットのあれこれ。
やっと手慣れて来たのが
クリスマスまで片手で足りるという寸前間際のことで。
主人の肩へまとわせたいとする何かしら、
手掛けてくれてるというだけで、もうもう十分暖かいのだからと。
慌てずともいいと言うておいたに、ムキになってる恋女房の。
その一途さごと、愛しくてたまらぬと、
間近におわす真摯な横顔、目許細めて眺めてござる。
年越しの宿へは、それを着て出掛けられたらいいですね。
え? きっと恥ずかしがってやめろと言い出す?
その折はきっと“間に合うようにと編んでくれたのだろう?”と、
惚けるつもり満々の、悪戯好きな物書きせんせえ。
いつ言えば、あたふたさせる効果が大きいかなと、
無理はしなくていいと言いつつ、まだ仕上がらぬのが待ち遠しい、
複雑な心持ち持て余してござった、聖夜のひとときだったそうな。




    
Merry Christmas!!



   〜Fine〜  09.12.25.


  *そういえば、年越しに当たっては、
   生体保つためにという光珠を頂かなきゃいけないんじゃなかったか。
   あれからもう1年ですよ。早いですねぇ。

   ……じゃなくて。

   ちいとも“クリスマス”らしい話じゃなくてすいません。
(苦笑)

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